ベースアップ評価料の配分で、もっとも悩ましいのがパートスタッフへの配分です。正職員と違って勤務時間がまちまちで、「扶養の範囲内で働くパート」と「社会保険に加入しているパート」では配分の考え方も変わります。
この記事では、2026年(令和8年)の診療報酬改定後の点数をもとに、扶養内パートと社保加入パートそれぞれの配分シミュレーションを具体例で解説します。賃金改善計画書の記入方法までカバーします。
パート配分の基本ルール
ベースアップ評価料の配分には、以下の原則があります。
- 全職種に配分する: 医師だけでなく、看護師・医療事務・パートまで含める
- 勤務時間に応じて按分する: フルタイムとパートで差をつけるのは合理的だが、合理的な説明ができることが条件
- パートは時給換算を明記する: 月額だけではなく「時給◯◯円UP」と記入すると審査が通りやすい
前提条件:シミュレーションの設定
以下の条件でシミュレーションを行います。
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| 1日の平均患者数 | 100人(初診20人+再診80人) |
| 月間診療日数 | 25日 |
| ベア評価料 月額見込収入 | 165,000円 |
| スタッフ構成 | 医師1名、正看護師2名、正事務1名、パート4名 |
月額見込収入165,000円の計算式: (20人 × 17点 + 80人 × 4点) × 25日 × 10円 = 165,000円
シミュレーション1: 均等配分(全員一律)
まず、すべてのスタッフに均等に配分するパターンです。シンプルですが、フルタイムの正職員と短時間パートで同じ額を受け取ることになり、不公平感が生じる可能性があります。
| 職種 | 人数 | 1人あたり月額 | 月間勤務時間 | 時給UP換算 |
|---|---|---|---|---|
| 医師 | 1名 | 23,571円 | — | — |
| 正看護師 | 2名 | 23,571円 | 160h | 約147円 |
| 正事務 | 1名 | 23,571円 | 160h | 約147円 |
| 扶養内パート | 2名 | 23,571円 | 80h | 約295円 |
| 社保加入パート | 2名 | 23,571円 | 130h | 約181円 |
| 合計 | 8名 | 165,000円 |
均等配分の場合、扶養内パート(月80時間)の時給UPが約295円と突出して高くなります。正職員の約147円の2倍となり、審査で「配分が不自然」と指摘されるリスクがあります。
シミュレーション2: 勤務時間按分(推奨)
次に、各スタッフの月間勤務時間に応じて按分するパターンです。最も合理的で、審査でも通りやすい方法です。
ステップ1: 総勤務時間を計算
| 職種 | 人数 | 1人あたり月間勤務時間 | 合計勤務時間 |
|---|---|---|---|
| 医師 | 1名 | 160h | 160h |
| 正看護師 | 2名 | 160h | 320h |
| 正事務 | 1名 | 160h | 160h |
| 扶養内パート | 2名 | 80h | 160h |
| 社保加入パート | 2名 | 130h | 260h |
| 合計 | 8名 | 1,060h |
ステップ2: 時間単価を計算し配分
時間単価 = 165,000円 ÷ 1,060h = 約155.7円/時間
📊 勤務時間按分の結果
| 職種 | 1人あたり月間時間 | 1人あたり配分額 | 時給UP換算 |
|---|---|---|---|
| 医師 | 160h | 約24,905円 | 約156円 |
| 正看護師 | 160h | 約24,905円 | 約156円 |
| 正事務 | 160h | 約24,905円 | 約156円 |
| 扶養内パート | 80h | 約12,453円 | 約156円 |
| 社保加入パート | 130h | 約20,236円 | 約156円 |
✅ 勤務時間按分のメリット
① 全スタッフの時給UP額が同一(約156円)で、公平性が高い
② 審査での説明が容易
③ 扶養内パートの月額が約12,453円で、「年収の壁」を超えにくい
シミュレーション3: パート種別ごとに加重配分
3つ目のパターンは、扶養内パートと社保加入パートで配分比率を変える方法です。社保加入パートはフルタイムに近い勤務のため、若干高めの配分とします。
| 職種 | 配分比率 | 1人あたり配分額 | 時給UP換算 |
|---|---|---|---|
| 医師・正職員(160h) | 1.0 | 約24,000円 | 約150円 |
| 社保加入パート(130h) | 0.9 | 約18,000円 | 約138円 |
| 扶養内パート(80h) | 0.7 | 約11,500円 | 約144円 |
この方法は「フルタイムとパートで配分比率を変える」ことを合理的に説明できる場合に有効です。ただし、比率の根拠(例: 正職員は残業・オンコール対応があるため1.0、パートは定時勤務のため0.7〜0.9)を必ず明記しましょう。
扶養内パートの「年収の壁」に注意
2026年現在、扶養の範囲は年収130万円未満(月額約108,333円)です。ベースアップ評価料による改善額が月12,000円を超えると、他の収入と合わせて扶養から外れるリスクがあります。配分時には、パートスタッフ自身の希望も確認しましょう。
どのパターンを選ぶべきか
クリニックの状況に応じて、最適な配分パターンを選びましょう。
| 状況 | 推奨パターン | 理由 |
|---|---|---|
| パート比率が低い(2名以下) | 均等配分(パターン1) | 計算がシンプル。パートが少なければ不公平感も小さい |
| パート比率が高い・初めての届出 | 勤務時間按分(パターン2) | 最も公平で審査が通りやすい。初回におすすめ |
| 正職員とパートの職務に明確な差がある | 加重配分(パターン3) | 職務内容の差を反映できる。ただし根拠の明記が必須 |
賃金改善計画書(様式95)への記入方法
パートスタッフの配分を様式95に記入する際のポイントです。
- 職種欄は「パート看護師」「パート医療事務」など、正職員と分けて記入する
- 改善額は月額で記入し、備考欄に「時給換算で◯◯円UP」と補記する
- 扶養内パートと社保加入パートは、可能であれば別行に分けて記入する
- 配分方法の根拠(勤務時間按分、または加重配分)を備考欄に簡潔に記載する
| 職種(記入例) | 人数 | 月額改善額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| パート看護師(扶養内) | 2名 | 各12,500円 | 月80h勤務。時給換算約156円UP。勤務時間按分 |
| パート看護師(社保加入) | 1名 | 20,000円 | 月130h勤務。時給換算約154円UP。勤務時間按分 |
| パート医療事務(扶養内) | 1名 | 12,500円 | 月80h勤務。時給換算約156円UP。勤務時間按分 |
勤怠データの正確な把握が配分のカギ
パートスタッフへの適切な配分には、月ごとの正確な勤務時間データが不可欠です。とくに扶養内パートの場合、月80時間を超えていないか、年収130万円に近づいていないかを常に把握しておく必要があります。
Medical Attend は、パートスタッフの勤務時間を自動集計し、扶養の壁アラート、職種別の人件費レポート、ベア評価料の配分計算に必要なデータ出力を提供しています。
