2026年10月から、パートタイム・有期雇用労働者の待遇に関するルールが変わります。受付・看護師・医療事務などパートスタッフが中心のクリニックにとって、今回の改正は他人事ではありません。厚生労働省が2026年8月に公表した情報に基づき、施行前に押さえるべき3つのポイントと対応をまとめます。
この記事では、労働条件明示事項の追加、同一労働同一賃金ガイドラインの改正、雇用管理上の措置の見直しという3つの改正ポイントを、クリニックの実務に落とし込んで解説します。
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ポイント① 雇い入れ時の労働条件明示事項が追加される
パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れるとき(労働契約の更新時も含む)は、これまでも「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4事項を書面の交付等により明示することが義務づけられていました。今回の改正で、「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」の明示が新たに追加されます。
正社員との待遇の違いについて、スタッフが会社に説明を求めることができることを知らせる内容です。労働条件通知書の様式を確認し、更新時にも対応できるように準備しましょう。
ポイント② 同一労働同一賃金ガイドラインが改正される
どのような待遇差が不合理と認められるかを示すガイドラインが、裁判例などを踏まえて見直されます。主なポイントは次のとおりです。
- 家族手当: 相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の支給が求められる
- 住宅手当: 正社員と同一の転居を伴う配置変更があるパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の支給が求められる
- 夏季冬季休暇: パート・有期雇用労働者には、正社員と同一の夏季冬季休暇の付与が求められる
「パートだから手当なし」という運用は、理由によっては不合理な待遇差とみなされる可能性があります。自院の手当・休暇の支給条件を棚卸ししましょう。
ポイント③ 雇用管理上の措置の内容が変わる
待遇の相違について説明する際は、「資料を活用し、口頭により説明する方法」または「説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付する等の方法」のいずれかによることが必要になります。また、賃金を決定する際には、職務の内容や成果・意欲・能力・経験などを公正に評価し、昇給に反映することが求められます。正社員への転換制度の内容や実績の明示・公表も努力義務とされています。説明の記録を残しておくと、後からトラブルになった際の証拠にもなります。
クリニックへの影響〜パート中心の職場だからこそ
クリニックでは、受付・看護師・医療事務などの多くがパート・有期雇用です。契約更新時に労働条件通知書を交付し直すケースも多く、今回の明示事項の追加は毎回の更新手続きに直接影響します。
また、正社員とパートの間で「家族手当が出る・出ない」「夏季休暇の日数が違う」といった待遇差がある場合は、その理由を説明できる状態にしておくことが重要です。説明できない差は、トラブルや是正の対象になり得ます。
施行前にやるべき3つの対応
「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」の明示欄を追加します。新規採用時だけでなく、契約更新時にも対応が必要です。
手当・賞与・退職手当・休暇・福利厚生について、正社員とパートで差がある項目をリスト化し、それぞれ「理由を説明できるか」を確認します。
職務内容や成果を評価して賃金を決める基準を文書化し、説明方法(口頭+資料/資料交付)を決めておきます。転換制度があれば内容と実績も整理します。
クリニックで見直しが必要になる待遇差の例
- 正社員にのみ家族手当・住宅手当を支給している(相応に継続勤務が見込まれるパートには同様の支給が必要になる可能性)
- 夏季・冬季休暇が正社員のみ(パート・有期雇用労働者にも同一付与の考え方が示されている)
- 賞与・退職金の有無がパートで一律に異なる(差の理由を説明できる状態が必要)
- 時給のみで評価制度がなく、賃金決定の基準が不明確(公正な評価に基づく賃金決定が求められる)
「そもそも職務内容や責任範囲が違う」「成果や経験に差がある」「転換制度を用意している」といった合理的な理由を、書面で説明できるようにすることが大切です。
準備スケジュール(目安)
| 時期 | やること |
|---|---|
| 2026年8月 | 正社員とパートの待遇差を棚卸しし、労働条件通知書の書式を確認 |
| 2026年9月 | 明示事項の追加・賃金決定ルールの文書化・説明資料の準備 |
| 2026年10月 | 施行。新規採用と更新から新しいルールを適用 |
10月以降に契約更新を迎えるスタッフが多い場合は、その前に書式と運用を整えておくと現場の混乱を防げます。
関連する制度:130時間の壁と勤怠管理
パートスタッフの労務管理では、社会保険の適用拡大(いわゆる130時間の壁)も無視できません。扶養内で働くパートスタッフの勤務時間が月130時間を超えそうになると、社会保険の加入対象になるため、シフト調整の要になります。
パートの勤務時間を月単位で可視化し、扶養内・社保加入の判定に使えるデータを残しておくと、今回の改正への対応とあわせて労務管理の質が大きく上がります。
130時間を超えそうなスタッフをシフト作成時点で把握できる仕組みが有効です。勤怠システムで月次集計とアラートを自動化すれば、現場の負担も減ります。
130時間の壁は、シフトを組む段階で意識できると、扶養内で働くスタッフにも安心して働いてもらえます。
よくある質問
Q. 契約更新のたびに労働条件通知書を作り直す必要がありますか?
A. 更新時に明示すべき事項を変更する場合は交付し直す必要があります。今回追加される明示事項も、更新時に交付する書類へ反映しましょう。書式が不明な場合は、厚生労働省のリーフレットやパートタイム労働法のガイドライン、社会保険労務士を参考にしてください。
Q. パートに賞与を出すと正社員と同じにしなければなりませんか?
A. 制度の有無や支給条件が不合理に異なる場合、差が問題になる可能性があります。支給有無を分ける合理的な理由(勤続年数や職務内容など)を整理し、説明できる状態にしておきましょう。
Q. 対応の期限はいつまでですか?
A. 施行は2026年10月です。新規採用や10月以降の更新に間に合うよう、8〜9月中に書式と運用を準備することをおすすめします。
Q. パートから正社員への転換制度は必須ですか?
A. 転換制度そのものの設置は努力義務とされていますが、設置している場合はその内容や実績を明示するよう努めることが求められます。制度の有無にかかわらず、キャリア形成の機会について合理的に説明できる状態にしておきましょう。
まとめ
2026年10月施行のパート・有期雇用ルール変更では、①労働条件明示事項の追加、②同一労働同一賃金ガイドラインの改正、③雇用管理上の措置の見直しが行われます。パート中心のクリニックでは、労働条件通知書の更新・待遇差の棚卸し・賃金決定ルールの整備を、施行前に済ませておきましょう。待遇差の棚卸しは一度きりではなく、制度変更や採用時・更新時のたびに見直す運用が理想です。施行後も、明示・説明・評価の仕組みが実際に機能しているかを確認しましょう。
