医師の働き方改革による時間外労働の上限規制は、2024年4月1日から医師に適用され、2026年現在も運用が続いています。病院では、医師の労働時間を正確に把握し、上限(年960時間または年1,860時間)を超えない運用を求められていますが、「水準の違いがわからない」「宿日直の扱いに迷う」という事務長・人事担当者は少なくありません。
この記事では、厚生労働省の資料に基づき、医師の時間外労働の上限規制の仕組み、A水準とB・連携B・C水準の違い、面接指導、宿日直許可の基準、病院の勤怠管理の実務を解説します。
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資料を請求する →医師の時間外労働の上限規制とは
時間外労働の上限規制は、一般の労働者には2019年4月(大企業)・2020年4月(中小企業)から適用されていましたが、医師には2024年4月1日から適用されました。それまでは医師の長時間労働が社会問題となっていたことを受けた制度です。
上限の内容は次のとおりです。月100時間未満、2〜6ヶ月の平均で80時間以内という基準もあわせて守る必要があります。
| 水準 | 年間の時間外・休日労働 | 対象 |
|---|---|---|
| A水準 | 960時間以内 | 原則すべての医療機関 |
| B・連携B水準 | 1,860時間以内 | 地域医療提供体制の確保のために水準指定を受けた病院など |
| C水準 | 1,860時間以内 | 研修医など技能の向上を目的とする場合(研修病院など) |
年1,860時間は「上限」であり、その時間まで労働させてよいという意味ではありません。地域医療を維持するための特例として、指定を受けた医療機関に限って認められる枠です。
水準の選択と指定の実務
B・連携B・C水準を使うには、厚生労働省の定める要件を満たし、水準指定を受ける手続きが必要です。A水準(年960時間)は特別な手続きなしで適用されますが、B・C水準は医療機関ごとに指定の有無を確認しておきましょう。
B・連携B・C水準の指定を受ける医療機関では、連続勤務時間の制限(原則28時間以内)や勤務間インターバル(休息時間)の確保が求められます。指定の有無や適用要件は厚生労働省や管轄の行政機関の最新資料で確認してください(本記事の情報は2026年8月時点のもので、水準指定の新規申請手続きの詳細は未確認です)。
水準指定の有無は労務リスクに直結するため、人事・労務担当者が正確に把握しておきましょう。
月100時間未満ルールと面接指導
どの水準でも、時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師への対応が義務づけられています。具体的には次のとおりです。
- 月100時間以上となることが見込まれる医師には、医師本人の申出に基づく面接指導を実施する
- 事業者は、医師が面接指導を申し出やすい環境を整える必要がある
- 面接指導の結果、必要と認められる場合には、就業場所の変更や勤務時間の短縮など就業上の措置を講じる
面接指導の対象を正しく抽出するには、日々の勤怠データから「月100時間に達しそうな医師」を事前に把握できる仕組みが重要です。
宿日直許可の基準と勤怠管理
病院では当直・宿直が日常的に発生しますが、その扱いを誤ると労働時間の把握が大きく狂います。まず、次の2つを区別しましょう。
- 医療法第16条に基づく宿直: 病院に医師を宿直させることが法定義務。この宿直自体に労働基準監督署長の許可は不要
- 労基署長の宿日直許可: 「特殊な措置を必要としない軽度の、または短時間の業務」に従事する場合のみ、労働時間として扱わなくてよいとする許可
宿日直許可の一般的な条件は、常態としてほとんど労働しないこと/通常の労働の継続ではないこと/宿日直手当が同種業務の1人1日平均額の3分の1以上であること/宿直は週1回・日直は月1回以内であること/宿直には相当の睡眠設備があることです。許可を受けずに実質的な業務(夜間の救急対応・手術など)をさせた場合は、その時間はすべて労働時間としてカウントされ、時間外労働の上限にも算入されます。
当直明けの扱い・オンコールの待機時間・連続勤務の制限など、勤務形態ごとの労働時間の定義を就業規則で明確にし、勤怠データに反映しましょう。
当直明けの翌日の勤務開始時刻や休息時間の確保も、労働時間の通算に影響します。勤務間インターバルが確保できているかを確認できる勤怠データを残しましょう。
病院が取り組むべき勤怠管理の実務
医師の労働時間を職種別・勤務形態別に可視化する
日勤・当直・宿直・オンコールを区分して記録し、医師ごとの時間外労働の累積を月単位・年単位で確認できる状態を作りましょう。紙の申告では把握漏れが起きやすく、是正勧告のリスクが高まります。
タスクシフト・タスクシェアを進める
医師の負担を減らすため、特定看護師や医療クラークなどへの業務移管(タスクシフト)と、チーム内での業務分担(タスクシェア)を検討します。長期的には人件費構造そのものの見直しにつながります。
上限チェックをシステムで自動化する
年960時間・年1,860時間・月100時間未満・複数月平均80時間以内は、手計算では管理が困難です。勤怠管理システムで時間外労働を自動集計し、上限に近づいたらアラートを出す仕組みにすれば、違反の予防と事務負担の軽減を同時に実現できます。
非常勤・兼業医師の労働時間通算
複数の医療機関で勤務する医師の労働時間は、労働基準法第38条によりすべて通算して把握する必要があります。本務がフルタイムの医師が兼務先で勤務する場合、その時間は原則すべて時間外労働となり、兼務先の医療機関でも36協定の締結・届出が必要です。
非常勤医師が多い病院では、他院勤務時間の自己申告ルールを就業規則に明記し、申告された時間を上限管理に反映する仕組みを作りましょう。通算の漏れは、上限超過と未払い残業代の両方のリスクにつながります。
よくある質問
Q. A水準で年960時間を超えそうになったらどうすればいいですか?
A. 超過が見込まれる時点で、業務量の調整・人員の増員・タスクシフトを検討します。B・連携B・C水準の指定要件を満たす医療機関は水準変更の検討も可能ですが、新規指定の手続きの詳細は厚生労働省の最新資料で確認してください。
Q. 宿日直許可を受けずに夜間対応をさせるとどうなりますか?
A. その時間は労働時間としてカウントされ、時間外労働の上限に算入されます。実態が「特殊な措置を必要としない軽度・短時間の業務」でないのに許可なしで運用すると、未払い残業代と上限超過の両方のリスクが生じます。
Q. オンコールの待機時間は労働時間になりますか?
A. 待機場所や業務の実態により判断が分かれます。自宅などで自由に過ごせる場合は労働時間にならないことが多いですが、院内待機や即時対応が必要な場合は労働時間とみなされる可能性があります。就業規則で扱いを明確にし、個別のケースは専門家に確認しましょう。
まとめ
医師の働き方改革は2024年4月に始まり、2026年も運用が続いています。A水準(年960時間)とB・連携B・C水準(年1,860時間)の違いを理解し、月100時間未満ルールと面接指導、宿日直許可の基準を正しく運用することが、病院の労務リスク管理の要です。まずは自院の医師の時間外労働がどの水準で管理されているかを確認するところから始めましょう。この機会に、水準・宿日直許可・面接指導の運用をまとめて点検することをおすすめします。
