病院や診療所で医師に宿直・日直をさせているのに、宿日直許可を取得していないというケースは少なくありません。許可がないまま宿日直に従事させると、労働時間規制の適用除外にならず、時間外・休日労働の上限規制違反のリスクが生じます。
この記事では、厚生労働省のFAQ(2024年8月更新)に基づき、宿日直許可の条件・申請手続き・手当・許可後の勤怠管理を解説します。
宿日直許可とは
宿日直許可は、医療機関の医師等が従事する宿直・日直のうち、常態としてほとんど労働することがない勤務について、労働時間規制の適用除外を認める許可です。許可を受けた勤務態様で宿日直に従事する場合に限り、労働基準法上の労働時間・休日・割増賃金の規制が適用されません。
許可のない宿日直は通常の労働時間として扱われるため、時間外・休日労働の上限(一般労働者は年360時間、医師はA水準で年960時間など)に算入されます。医師の働き方改革対応でも、宿日直許可の有無は労働時間把握の重要な論点です。
宿日直許可の条件(5つ)
厚生労働省のFAQでは、一般的な許可の条件として以下の5つが示されています。
- 常態としてほとんど労働することがないこと
- 通常の労働の継続ではないこと
- 宿日直手当額が、同種の業務に従事する労働者の1人1日平均額の3分の1以上であること
- 宿日直の回数が、原則として宿直は週1回・日直は月1回以内であること
- 宿直について相当の睡眠設備を設置していること
「ほとんど労働がない」状態とは、実質的に電話番や警備に近い待機が中心であることが前提です。診療や処置が頻繁に発生する勤務は許可の対象にならないため、実態を正確に確認したうえで申請する必要があります。
申請手続きの流れ
許可申請書(様式第10号)原本2部と、労働条件通知書・雇用契約書の写し、宿日直の当番表・シフト表、業務日誌、給与一覧表、宿日直手当額計算書などを用意します。
申請関係書類は事前に監督署へ確認し、勤務実態が条件を満たすことを書面上で確認してもらいます。
労働基準監督官による実地調査(医師等へのヒアリング、仮眠スペースの確認、直近数ヶ月の勤務記録の確認)が実施されます。
許可相当と認められれば許可書が交付されます。申請から許可までの期間は個別事情により異なるため、時間的余裕を持って申請します。
申請書類の標準的な例は厚労省FAQに掲載されていますが、監督署ごとに追加資料を求められる場合があります。まずは所轄の労働基準監督署へ事前相談するのが確実です。
宿日直手当の考え方
宿日直許可を受けた場合でも、宿日直手当の支給は必要です(条件③のとおり、同種の業務に従事する労働者の1人1日平均額の3分の1以上が基準)。手当額は就業規則や賃金規程で明確に定めておきましょう。
なお、許可を受けている宿日直中の「実際に労働した時間」が長時間に及ぶ場合は、その時間は労働時間として扱われ、時間外労働の対象となり得ます。許可の範囲内で運用できているか、実態の確認が欠かせません。
宿日直と「監視・断続的労働」の違い
宿日直と混同されやすい制度に、労働基準法第41条第3号の「監視・断続的労働」があります。こちらは、監督又は監視の業務で、断続的に労働する場合に労働時間規制の適用除外となる制度です。
宿日直許可は医療機関の医師等の宿直・日直に、監視・断続的労働は警備員やビル管理などの業務に適用されるもので、対象と要件が異なります。医療機関で宿直を運用する場合は、原則として宿日直許可の取得を検討することになります。
申請書類の標準的な例
厚生労働省のFAQでは、申請に必要な書類の標準的な例として、以下のものが挙げられています。
- 許可申請書(様式第10号)原本2部
- 対象労働者の労働条件通知書・雇用契約書の写し
- 宿日直勤務の従事回数がわかるもの(当番表・シフト表など、1ヶ月分)
- 宿日直中の業務発生頻度・内容・従事時間がわかるもの(業務日誌等)
- 対象労働者全員の給与一覧表と宿日直手当額計算書
- 巡回業務がある場合は巡回場所・順路を示す図面
- 宿直の場合は宿泊設備の概要
あくまで標準的な例であり、所轄の労働基準監督署によって追加資料を求められる場合があります。申請前に必ず事前相談を行いましょう。
医師以外の職種(看護師等)の扱い
宿日直許可の対象は医師だけでなく、看護師等の医療従事者も含まれます。看護師の宿直・日直についても、常態としてほとんど労働がない状態であることが要件です。
ただし、看護師の宿直で夜間の巡回や患者対応が頻繁に発生する場合は、許可の要件を満たさない可能性があります。医師と看護師で勤務実態が異なる場合は、職種ごとに申請内容を整理することが重要です。
よくある質問
Q. 許可を受けずに宿日直をさせるとどうなりますか?
A. 宿日直の時間は労働時間として扱われ、時間外・休日労働の上限規制(一般労働者は年360時間、医師はA水準で年960時間など)に算入されます。上限を超えた場合は労働基準法違反となる可能性があります。
Q. 申請から許可までどのくらいかかりますか?
A. 申請書類の不備の有無や実地調査の日程調整によって異なり、個別事情によります。時間的余裕を持って事前相談・申請を行うことが重要です。
Q. 宿日直中に業務が発生した場合の記録は必要ですか?
A. 必要です。宿日直中の業務発生の頻度・内容・従事時間を業務日誌等で記録し、許可の要件(常態としてほとんど労働がないこと)を満たしているかを確認できるようにしておきましょう。
Q. 副業・兼業先での宿日直も把握する必要がありますか?
A. 医師の働き方改革では、副業・兼業先の宿日直の有無や許可の状況も含めて労働時間を把握することが求められています。勤怠管理とあわせて、自己申告の仕組みを整えましょう。
許可後の運用チェックリスト
宿日直許可を取得した後は、以下の項目を定期的に確認しましょう。
- 宿直は週1回・日直は月1回以内に収まっているか
- 宿日直中の業務発生が「ほとんど労働がない」状態を維持しているか
- 宿日直手当を就業規則どおりに支給しているか
- 当番表・業務日誌・手当の支給記録を保存しているか
- 許可の内容と実態にズレが生じていないか(生じた場合は監督署へ相談)
許可後の運用が許可時の実態と乖離すると、許可の取り消しや労働時間規制違反につながる可能性があります。年に1回は実態を棚卸しし、必要に応じて所轄の労働基準監督署へ相談してください。
許可後の勤怠管理
宿日直許可を取得した後も、以下の記録を残すことが重要です。
- 宿日直の当番表・シフト表(回数の管理: 宿直は週1回・日直は月1回以内)
- 宿日直中の業務発生の有無と従事時間(業務日誌)
- 宿日直手当の支給記録
- 通常勤務との労働時間の切り分け(時間外・休日労働の正確な把握)
医師の働き方改革では、宿日直の状況(主たる勤務先・副業兼業先を含む)を把握することが求められています。勤怠管理システムで宿日直の勤務区分を定義し、当番表・実績・手当を一元的に管理すれば、許可後の運用と労務監査対応の両方に役立ちます。
まとめ
宿日直許可は、医師の宿日直を労働時間規制の適用除外にするための制度で、5つの条件を満たした場合に労働基準監督署が許可します。申請は様式第10号と添付書類、実地調査を経て交付されます。許可後も回数・手当・実態を正確に記録し、医師の働き方改革の労働時間把握とあわせて管理しましょう。
