訪問看護ステーションでもベースアップ評価料の届出・報告が日常業務になりつつあります。ステーションは職員数が少ないぶん、計画書や報告書の作成を一人で抱え込む管理者も少なくありません。この記事では、訪問看護のベースアップ評価料(Ⅰ・Ⅱ)の違いと、算定要件・届出様式・計算の考え方を、厚生労働省の資料に基づいて解説します。
訪問看護のベースアップ評価料(Ⅰ・Ⅱ)とは
訪問看護には「訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)」と「(Ⅱ)」があります。2025年1月10日付の厚生労働省事務連絡では、(Ⅰ)のみを届け出る場合に、より簡素な「専用届出様式」が使えるようになりました。届出様式は厚生労働省や地方厚生(支)局のウェブサイトからダウンロードできます。
対象職員と算定要件
対象職員は、訪問看護に従事する看護師・准看護師・理学療法士・作業療法士など「主として医療に従事する職員」です。算定には、ステーションの所在地を管轄する地方厚生局への施設基準の届出と、賃金改善計画書の作成・実施が必要です。届出の際には添付書類(訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)では「訪べⅠ1号」など)を確認しましょう。
計算の考え方
(Ⅱ)の様式(別紙様式11)では、対象職員の給与総額・訪問看護管理療養費の回数・医療保険の利用者割合を入力すると、給与の改善率が様式上の計算式で自動算出されるようになっています。医療保険と介護保険の利用割合で評価の対象が変わるため、利用者構成を把握しておくことが重要です。改善率の計算に使う給与データは、勤怠・給与システムから正確に集計できる体制をつくりましょう。
届出・報告のスケジュール
- 賃金改善計画書: 算定年度の4月(都道府県により受付時期が異なります)
- 賃金改善中間報告書: 算定年度の8月(令和8年度は8月31日まで)
- 賃金改善実績報告書: 翌年度の8月
対象職員と勤務形態の確認
訪問看護ステーションの対象職員は、看護師・准看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など、訪問看護の提供に携わる職員です。常勤・非常勤・パートを問わず、主として医療に従事する職員は給与総額に含めます。管理者として運営業務のみを行う職員や、専ら事務作業を行う職員の扱いは、ステーションの人員基準と照らし合わせて確認しましょう。非常勤職員の勤務時間が増減した場合は、対象職員の範囲も見直す必要があります。
医療保険と介護保険の利用割合が計算に与える影響
訪問看護のベースアップ評価料(Ⅱ)の計算では、医療保険の利用者割合が計算要素の一つです。訪問看護ステーションは医療保険(訪問看護療養費)と介護保険(介護給付)の両方でサービスを提供するため、利用者構成によって算定額が変わります。日々の訪問実績を保険種別で記録し、報告書作成時に対象期間の割合を正しく算出できるようにしましょう。訪問回数や利用者数の管理は、ケア記録システムや勤怠データと紐づけて集計するのが確実です。
よくある質問
(Ⅰ)と(Ⅱ)はどちらを選べばよい?
算定要件や対象範囲によって選択が異なります。(Ⅰ)は専用様式で簡素に届出できる一方、要件を満たすかは自ステーションの状況次第です。厚生労働省の算定要件と様式を確認し、判断に迷う場合は管轄の地方厚生局へ問い合わせましょう。
複数事業所を運営している場合は?
事業所ごとに施設基準の届出と報告が必要です。職員が複数事業所を兼務する場合は、勤務実態に応じた所属の整理と、給与総額の按分が必要になることがあります。
計画どおりに賃上げできなかったら?
中間報告で計画との乖離が判明した場合は、理由を整理し翌年度の計画へ反映します。算定の継続に関わるため、状況に応じて早めに専門家や厚生局へ相談しましょう。
ステーション運営で押さえる実務ポイント
データ集計の体制
訪問看護ステーションは職員数が少なく、報告書の集計を管理者が担うケースが多いのが実態です。給与総額・訪問回数・保険割合のデータを、毎月同じタイミングで集計する仕組み(月末締めのレポートなど)をつくると、報告書作成時の作業が大幅に減ります。
職員との合意形成
賃金改善計画は職員のモチベーションにも直結します。改善の内容(基本給・手当・賞与など)と対象範囲を計画段階で職員へ丁寧に説明し、実績を報告書だけでなく職員にもフィードバックしましょう。
期限管理
中間報告の提出期限は8月31日です。夏休みと重なることも多いため、ステーション内のカレンダーに締切を明示し、管理者と事務担当のダブルチェック体制を決めておきましょう。
よくある記入ミス
- 医療保険と介護保険の利用者割合を誤る
- 非常勤職員の勤務時間の変動を反映しない
- 訪問看護管理療養費の回数の集計期間を誤る
- 旧様式のまま提出する
- 提出先(管轄厚生局)を取り違える
いずれも「計算要素を正しく把握していない」ことが原因です。月次で集計する仕組みがあれば、報告書作成時のミスを大きく減らせます。月次レポートを作っていれば、8月の報告書作成時に過去分を参照するだけで済みます。
報告書作成を効率化する3つの工夫
毎月の集計レポートをつくる
月末締めのタイミングで、給与総額・訪問回数・保険割合の月次レポートを固定フォーマットで作成します。報告書の提出時期にまとめて集計するのではなく、月次で蓄積しておくのがポイントです。
保険割合を自動化する
訪問実績を保険種別(医療保険・介護保険)で記録し、レポートで自動集計できるようにします。手集計だと利用者構成の変化を反映し忘れるリスクがあります。
提出期限を共有する
8月31日の締切は夏休みと重なるため、管理者・事務担当・法人本部でカレンダーを共有し、提出2週間前から準備を始めましょう。
訪問看護管理療養費の回数とは
「訪問看護管理療養費」は、訪問看護ステーションが医療保険の訪問看護を提供する際に算定される費用です。ベースアップ評価料(Ⅱ)の計算では、この管理療養費の回数が計算要素の一つになります。訪問看護の提供回数は月ごとに変動するため、集計期間を誤ると改善率の計算がずれます。訪問記録と請求データを照合し、保険種別ごとの回数を正しく管理しましょう。管理療養費は訪問を提供した回数に応じて算定されるため、記録の残し方をあらかじめ統一しておくのがおすすめです。
人員基準との関係
ベースアップ評価料の算定対象となる職員は、ステーションの人員基準に基づく職員と重なります。訪問看護ステーションの指定基準では、看護職員を常勤換算で2.5人以上(うち1人は常勤)配置する必要があります(厚生労働省令)。人員体制の変更は算定にも影響するため、採用・退職の際は対象職員の範囲を再確認しましょう。常勤換算の計算式は指定基準の解説資料に示されています。基準が見直された場合は最新版を確認してください。
まとめ
訪問看護のベースアップ評価料は、(Ⅰ)の専用様式による簡素な届出が可能です。給与総額・管理療養費回数・医療保険割合を正しく把握し、計画書から実績報告までのサイクルを回すことがポイントです。訪問看護ステーションは職員数が少ないからこそ、月次のデータ集計と期限管理の仕組みづくりが重要です。最初の1年を乗り切れば翌年からはスムーズに対応でき、報告書作成の効率化には職員の勤怠・給与データを一元管理できる仕組みが役立ちます。
