フランスの週35時間、医療現場では崩壊している——週58時間実働の衝撃
「制度」があれば現場は回るのか
労働時間を法律で決めれば、医療現場の過酷さは解決するのか。
フランスには世界で最も厳しい労働時間規制があります。法定週35時間、週最大48時間、1日の勤務は最大9時間。夜勤後は2日以上の休息が必要で、週に36時間以上の連続休息も義務。管理職には年208日の労働日数上限があり、残業はRTT(労働時間削減)として代休に変換されます。
制度だけ見れば完璧です。実際に働いてみると、まったく違う現実があります。
パリの手術室、法定35時間なのに週58時間
ネッカー病院(パリ)の手術室で働く看護師Marieさんは、こう語っています。
「バーンアウトで5人が休職しています。条件が悪くて辞める人が後を絶たない。もうネッカーで働き続けたいと思えない」
ネッカー病院では年間8,000件の手術を行っています。14室の手術室に必要なフルタイム相当は51人なのに、実際の勤務者は約30人。法定35時間に対して実働は週58時間。23時間の超過です。
手術室の責任者Grégory Chakir氏は「不足を補うために派遣社員を入れていますが、小児科の手術に未熟な派遣要員を現場で教育しながら手術をしている」と話します(Revolution Permanente、2026年7月3日)。
看護師の63%がバーンアウト、欠勤は平均12.9日
フランス全体の数字を見てみましょう。
CSA/MNHの全国調査によると、医療従事者の精神衛生が「悪い」と答えた人は35%。一般人口より21ポイント高い数字です。年間の病気欠勤は平均12.9日で、国家公務員の平均8.8日を大幅に上回ります。精神科の空席率は40%に達しています。
アンジェ大学病院の集中治療部長Alain Mercat教授はこう言います。「人員不足の結果、3日連続勤務の後にようやく休み。さらに同僚の欠員補充で4日目を頼まれる。これは本当に頭の痛い問題だ」
看護師の63%がバーンアウト症状を訴えています。週35時間という法定労働時間は、現場では形骸化しているのです。
複雑すぎる時間計算——夜勤=半日2回分
フランスの医療現場には、独特の時間カウントがあります。
2022年の地位改革で、夜間勤務(18:30〜8:30)は「半日2回分」としてカウント。土曜正午〜日曜8:30は半日3回分、日曜8:30〜月曜8:30は半日4回分です。
一見すると負担軽減策に見えますが、これは「時間でなく半日単位で管理する」という、より複雑なシフト設計を生み出しています。RTT(労働時間削減)制度もあり、週35時間を超えた分は代休か報酬に変換されますが、慢性的な人手不足の中で代休を取ること自体が難しいのが現実です。
「制度だけでは現場は回らない」——フランスが教えてくれること
フランスの医療現場の実態は、日本のクリニック経営者にも突き刺さるテーマです。
労働時間規制を厳しくすれば現場は守られる——そう信じたい気持ちはわかります。でも、フランスの例が教えてくれるのは「制度と現場の間には、シフト管理という現実の壁がある」ということです。
週35時間と決まっていても、現場では週58時間働かざるを得ない。夜勤は半日2回分と計算されても、夜勤そのものがなくなるわけではない。代休制度があっても、取れる人員がいなければ絵に描いた餅です。
日本のクリニックでも同じです。社会保険の適用拡大や労働時間規制の厳格化が進む中で、制度に対応するには現場のシフト管理を改善するしかありません。
フランスの#SOSSoignants(医療従事者を救え)というハッシュタグは、いまもX上で拡散され続けています。日本のクリニックで同じような声が上がる前に、できることがあるはずです。
紙のタイムカードをやめる。シフトを自動化する。夜勤や時間外の複雑な計算をシステムに任せる。Medical Attendも、こうした「制度と現場のギャップ」を埋めるためにあります。
制度だけでは現場は回らない。フランスが身をもって教えてくれているのです。
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