2026年8月2日、EUで医療AIの規制が始まる。日本のクリニックにも関係ある話
「AI、使ってみようかな」と思ったあなたへ
診断補助AI、画像読影AI、トリアージ支援AI。ここ数年、クリニックにもAIを導入する動きが出てきています。
「AIに診断を任せるのはまだ早いけど、レポート作成の補助くらいなら」と思う院長もいるでしょう。あるいは「シフトの自動最適化にAIが使えたら」と考える人もいるかもしれません。
でも、もしそのAIがヨーロッパで販売されている製品だったら——来月から状況が一変します。
2026年8月2日。EU AI Act(欧州AI規制法)の大部分の規定が全面適用されます。医療分野で使われるAIのほとんどが「高リスク」に分類され、厳格な義務が課されるのです。
罰則は最高€3,500万(約5.6億円)。
「でもそれ、EUの話でしょ? 日本には関係ない」——そう思った人にこそ読んでほしい話です。
日本にはまだ「AI規制法」がない
まず押さえておきたいのが日本の状況です。
日本には、EU AI Actに相当する包括的なAI規制法はまだありません。総務省と経産省が「AI事業者ガイドライン」を策定していますが、法的拘束力はありません。
つまり、日本で医療AIを導入する場合、現時点で「この規制に従え」と明確に言える法律はない。言い換えれば誰でも自由にAIを医療現場に持ち込める状態です。
これはチャンスであると同時にリスクでもあります。
なぜなら、数年後には日本にも似たような規制が来る可能性が高いからです。EU AI Actは世界初の包括的AI規制法であり、日本を含む多くの国が参照することになるでしょう。
今のうちに「EUでは何が求められているのか」を知っておくことは、将来の規制対応の準備になります。そして、海外展開を考えている医療SaaSにとっては、先取りした品質基準にもなります。
EU AI Actが医療現場に求める3つのこと
EU AI Actはかなり複雑な法律ですが、医療現場の視点で押さえるべきは3つだけです。
1. ほとんどの医療AIは「高リスク」に分類される
EU AI Actでは、AIシステムを4段階(Unacceptable / High / Limited / Minimal)に分類します。
医療分野で使われるAIは、ほとんどの場合「高リスク」に該当します。具体的には、MDR(医療機器規則)の対象となる診断支援AIや画像解析AIは自動的に高リスク。公共医療のアクセス決定(トリアージ等)に使われるAIも、独立して高リスクとみなされます。
高リスクに分類されると、リスクマネジメント、データガバナンス、技術文書の作成、人間による監視、透明性の確保——といった多くの義務が発生します。
2. 病院・クリニックにも「Deployer」としての義務がある
ここが意外と見落とされがちなポイントです。
AIを作るメーカー(Provider)だけでなく、AIを買って使う病院やクリニック(Deployer)にも義務があります。
具体的には:
- 提供者の指示に従ってAIを使用する
- 人間による監視を適切なスタッフに割り当てる
- 重大なインシデントが発生したら15日以内に報告する
- 自動ログを最低6ヶ月保存する
- 公共病院の場合は、初回使用前に基本的人権影響評価(FRIA)を完了する
つまり、AIを導入したら終わりではなく、使い続ける間ずっと責任を負うという考え方です。
3. 罰則は最高€3,500万。でも準備ができている病院は26%だけ
違反した場合の罰則は重い。禁止行為(許容できないリスクのAI)で最高€3,500万または世界年間売上の7%。高リスクの義務違反で€1,500万または3%です。
しかしFrontiers in Digital Healthの2026年6月の論文によると、調査対象の病院のうち、AI Actへの準備ができていると答えたのはわずか26%。残り74%は「何から始めればいいか分からない」状態です。
多くの医療機関が、規制は来ると分かっているけど動けていない——このギャップこそが、この法律の最大の課題です。
「規制=悪」ではない——スタートアップはむしろ追い風と見ている
面白いのは、規制の捉え方です。
RedditのAIコミュニティでは、EU発のヘルスケアAIスタートアップが「厳格な医療プライバシー基準への準拠」をセールスポイントにする動きがあります。「EU AI Actに対応しています」という表示が、品質の証明になるからです。
規制は障壁ではなく、むしろ差別化のチャンスになりうる。
日本のクリニック向けSaaSも、今から「人間による監視」「透明性」「ログ管理」を設計思想に組み込んでおけば、将来の規制対応だけでなく、品質にこだわっているというメッセージにもなります。
では、日本のクリニックはどう備えるべきか
ここまで読んで「うちのクリニックはAIなんて使ってないし関係ない」と思った方もいるかもしれません。
でも、AIの定義は意外と広いんです。
例えば、シフト表を自動で最適化する機能。スタッフの勤務時間の傾向を学習して過不足を予測するアラート。勤怠データから「この人はそろそろ週20時間を超えそうだ」と教えてくれる仕組み——これらも立派な「AI支援機能」です。
Medical Attendも、将来的にこうした機能を追加する可能性があります。そのときEU AI Actの考え方を設計に反映しておくことは、単なる「規制対応」ではなく、「どういう考え方でAIを現場に導入するべきか」という指針になります。
EU AI Actが教えてくれるのは、「AIは便利だけど、ちゃんと人間が監視できる形で使おう」「導入したら放置せず、継続的に評価しよう」という、当たり前だけど大事な原則です。
来月からEUで始まるこのルール。日本のクリニックにも、間接的に関係がある——そう思っていただけたら嬉しいです。
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