「電子帳簿保存法への対応は、経理担当の仕事では?」と思われるかもしれません。しかし医療機関では、オンライン診療の領収書、医薬品・医療材料の電子請求書、取引先からメールで届く見積書など、電子データで受け取る書類が増えています。この記事では、医療機関が電子帳簿保存法で押さえるべき要件と、実務での対応手順を解説します。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿書類を電磁的記録(データ)で保存するためのルールを定めた法律です。2022年1月以降、電子的に受け取った請求書・領収書などの「電子取引データ」は、書面に印刷して保存するのではなく、データのまま保存することが義務づけられています(電子帳簿保存法第7条)。対象となるのは、電子的に授受した取引情報(請求書・領収書・見積書・注文書など)です。
医療機関に求められる対応
医療機関でも、次のような電子取引データが保存義務の対象になります。
- オンライン診療・オンライン服薬指導の領収書や明細(患者へ電子送信した場合)
- 医薬品・医療材料・備品のベンダーから届く電子請求書・納品書
- 業務委託先(清掃・警備・システム保守など)から届く電子請求書
- メール添付で受け取る見積書・発注書・契約書
紙で受け取った書類をスキャナ保存する場合とは要件が異なります。まずは「電子で受け取った書類」を洗い出し、保存ルールを決めることが第一歩です。
保存の3要件
真実性の確保
電子取引データの保存には、データの訂正・削除を防止する措置が必要です。具体的には、①訂正・削除ができないシステム、または訂正・削除の履歴が残るシステムを利用する、②タイムスタンプを付す、のいずれかを満たす方法が認められています。
可視性の確保
保存したデータは、ディスプレイで閲覧でき、書面に出力できる状態が必要です。
検索性の確保
取引年月日・金額・取引先などの項目で検索できることが求められます。国税庁のQ&Aでは、これらの要件を満たして保存していれば、管理の便宜のために書面に出力しても、電子データの保存義務は免除されない旨が示されています。
レセコン・電子カルテとの関係
診療報酬請求のデータ(レセコン・電子カルテの記録)は、医療法や診療報酬の規定で保存が求められるものであり、電子帳簿保存法の帳簿書類とは目的が異なります。ただし、請求データに関連する書類を電子的に受け取っている場合(振込明細の電子データなど)は、電子帳簿保存法の対象になることがあります。システム選定の際は、帳簿・書類の保存要件にも対応できる構成を確認しましょう。
スキャナ保存・電子帳簿保存との違い
電子帳簿保存法には、①電子取引データの保存、②自ら作成した帳簿書類の電子保存(電子帳簿保存)、③紙の書類をスキャナで読み取って保存するスキャナ保存、の3つの区分があります。医療機関で混乱しやすいのは、この区分です。たとえば「紙の領収書をスキャンして保存しているから対応済み」と思っても、電子で受領した請求書はデータのまま保存する必要があります。区分ごとの要件を整理して対応しましょう。
保存システムの選定は、まず自院で扱う書類の量と種類を把握してから行います。書類の量が少ないうちは、クラウドストレージと運用ルールで対応できるケースもあります。書類が増え、検索性や監査対応が必要になったら、専用の文書管理システムへの移行を検討しましょう。
業務フローへの組み込み方
保存ルールを整えても、現場で使われなければ意味がありません。受付・会計・経理の担当者が迷わず保存できるよう、次のような運用を決めましょう。
- 電子受領書類の保存先フォルダと命名規則を決める(例: 2026/仕入先名/請求書)
- メール添付の書類は、受信時に保存フォルダへ格納する運用にする
- 保存権限と閲覧権限を分け、訂正・削除の履歴を残す
- 月次で保存漏れがないか確認するチェック体制をつくる
運用ルールは、事務マニュアルとして文書化し、担当者が変わっても引き継げるようにしましょう。
システム選定のチェックリスト
- 訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができない仕様か
- タイムスタンプ付与に対応しているか
- 取引年月日・金額・取引先で検索できるか
- 保存期間の管理とバックアップができるか
- アクセス権限の設定が細かくできるか
- 医療機関の既存システム(レセコン・会計)と連携できるか
導入・運用のステップ
- 現状調査: 電子で受け取っている書類の一覧を作る
- 対象整理: 保存義務の対象(取引情報)と非対象を区分する
- システム選定: 訂正・削除防止と検索機能を持つ保存システムを選ぶ
- 運用ルール策定: 保存期間・担当者・バックアップを文書化する
- 教育: 受付・事務・経理担当者へ周知する
よくある質問
紙に印刷して保存すればよい?
電子取引データは、データのまま保存することが義務です。印刷した書面だけを保存しても、電子帳簿保存法の保存要件を満たしたことにはなりません。
タイムスタンプは必ず必要?
訂正・削除ができないシステムや履歴が残るシステムを利用していれば、タイムスタンプは必須ではありません。自院のシステム構成に合った方法を選びましょう。
保存期間は?
国税関係帳簿書類の保存期間(原則7年など)が適用されます。保存システムには、保存期間の管理機能があると便利です。
医療費控除の領収書は対象?
医療費控除は確定申告の制度で、患者側の書類の話です。医療機関側では、領収書の控えを電子的に発行した場合、その取引データが保存義務の対象になることがあります。運用を整理して対応しましょう。
電子取引に該当しない書類は?
FAXで受信した書類や、紙で受け取った書類は電子取引には該当しません。ただし、紙の書類の保存ルール(原本保存)は別途必要です。
保存運用の月次チェックリスト
- 当月に電子受領した書類が保存フォルダへ格納されているか
- 命名規則に沿ってファイル名が付けられているか
- 取引年月日・金額・取引先で検索できるか
- バックアップが正常に取得されているか
- 訂正・削除の履歴が残る設定になっているか
- 保存期間を過ぎたデータの廃棄ルールが守られているか
月次でこのチェックを回すと、保存漏れや設定ミスを早期に発見できます。
担当者が変わっても続く運用づくり
保存運用は、担当者が退職・異動すると途切れがちです。運用ルールをマニュアルに書き、保存先のフォルダ構成や命名規則を標準化しておきましょう。また、外部の税理士・会計事務所と連携している場合は、帳簿書類の保存状況を定期的にレビューしてもらうのも有効です。電子帳簿保存法への対応は「一度設定して終わり」ではなく、継続的な運用管理が必要です。
医療機関では年度末や確定申告時期に書類が集中します。繁忙期の前に保存漏れの棚卸しを行うなど、年間の運用カレンダーを用意しておくと安心です。
まとめ
電子帳簿保存法では、電子的に受け取った取引データをデータのまま保存することが義務です。真実性・可視性・検索性の3要件を満たす保存システムと運用ルールを整えましょう。医療機関ではレセコン・電子カルテ・会計・勤怠とデータが分散しやすいため、保存の運用を一元管理できるシステム構成が長期的な運用の鍵になります。まずは電子で受け取っている書類の一覧を作り、対象の洗い出しと保存先の決定から始めてみましょう。
