クリニックで看護師や医療事務の定着を考えるとき、「退職金制度がないから辞められる」という不安を持つ経営者は少なくありません。一方で、退職金は費用負担が大きいため、制度設計には慎重な判断が必要です。
この記事では、クリニックの退職金制度の種類・作り方・中小企業退職金共済(中退共)の活用方法を解説します。
退職金制度の種類
クリニックが導入できる退職金制度は、大きく次の4つに分けられます。
| 制度 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 退職一時金(社内積立) | 自社で積み立て、退職時に一括支給。規程で柔軟に設計できる | 自己資金で準備できる規模の医院 |
| 中小企業退職金共済(中退共) | 国の制度。掛金を積み立て、退職時に従業員へ支給。運営負担が少ない | 小規模クリニックの定番 |
| 確定給付企業年金 | 給付額をあらかじめ約束。設計・運用の負担が大きい | 大規模・複数拠点の医療法人 |
| 確定拠出年金(企業型DC) | 掛金を拠出し、従業員が運用。給付額は運用次第 | 従業員の資産形成を支援したい法人 |
小規模のクリニックでは、中退共を活用するケースが多く、事務負担を抑えながら退職金を準備できます。
中退共(中小企業退職金共済)の特徴
中退共は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する国の退職金制度です。掛金を積み立て、従業員の退職時に退職金として支給します。公式サイトの案内に基づく主な特徴は次のとおりです。
- 掛金は全額事業主が負担(従業員に負担させられない)
- 掛金月額は5,000円〜30,000円の16種類から、従業員ごとに任意で選択
- 短時間労働者(パート等・週30時間未満)は2,000円・3,000円・4,000円の特例掛金も選択可能
- 掛金は法人では損金、個人事業主では必要経費に算入できる
- 掛金月額18,000円以下からの増額には、増額分の3分の1を1年間、国が助成(10円未満切り捨て。同居親族のみを雇用する事業主は対象外)
- 掛金は口座振替で納付(当月または翌月18日)
パート中心のクリニックでは、特例掛金を使ってパートスタッフにも退職金を積めるのがメリットです。詳細は中退共の公式サイトで確認してください。
退職金規程の作り方
退職金を支給する場合は、退職金規程を整備し、就業規則に「退職金については別に定める退職金規程による」と定めるのが一般的です。規程に盛り込む主な項目は次のとおりです。
- 対象者(正職員・パートの区分と加入条件)
- 支給額の算定方法(基本給×勤続年数×係数など)
- 勤続年数の計算方法(端数の扱い・パートの換算)
- 支給しない場合(懲戒解雇・自己都合の扱い)
- 支給時期と手続き
規程の作成は、就業規則や労働条件通知書との整合が必要なため、社労士や顧問税理士に相談しながら進めましょう。
算定式の記載例
退職一時金の算定式は、たとえば次のように規定します。
支給率は勤続年数に応じて段階的に設定するのが一般的です(例:勤続3年未満0.5ヶ月分、3年以上5年未満1.0ヶ月分など)。パートの場合は勤続年数を時間数に応じて換算する旨を明記しましょう。
導入前に決めること
制度を導入する前に、次の4点を決めておきましょう。
- 対象者:正職員のみか、パートも対象にするか
- 掛金・原資:中退共にするか、社内積立か、生命保険か
- 支給基準:定額方式か、基本給連動か、中退共の積立額か
- 支給しない場合:懲戒解雇・試用期間中の退職・自己都合の扱い
特にパートの扱いは、クリニックでは重要な論点です。パート中心の職場で制度を導入する場合は、特例掛金(2,000円〜4,000円)で中退共に加入させる方法が現実的です。
導入の手続きフロー
退職金制度の導入は、次の流れで進めます。
- 社労士・税理士に相談し、制度の方向性を決める
- 退職金規程(または中退共の加入申込)を準備する
- 就業規則を変更し、労働基準監督署へ届け出る(必要な場合)
- 従業員へ制度を説明し、労働条件通知書に反映する
- 運用を開始し、毎年の掛金・積立状況を確認する
就業規則の変更には従業員への周知と意見聴取が必要です。導入時期に余裕を持って進めましょう。
財源の確保と税務の考え方
社内で退職一時金を積み立てる場合は、実際に資金を確保しておくことが大切です。税務上の取り扱いは法人の形態や制度によって異なるため、顧問税理士に確認してください。
中退共の場合は、掛金が法人の損金(個人事業主は必要経費)になるため、税負担を抑えながら計画的に積み立てられるのが大きなメリットです。
看護師の退職金の相場や税金の計算を知りたい方は、看護師の退職金【相場・計算方法・退職所得控除】をご覧ください。
退職金の支給の流れ(中退共の場合)
中退共を利用している場合、従業員が退職すると共済機構から従業員へ退職金が直接支給されます。事業主が退職金を用意する必要がないため、退職時の資金負担を避けられるのが大きなメリットです。
退職金の支給額は掛金の積立額に応じて決まるため、従業員には「毎月◯円積み立てている」ことを説明しやすく、制度の見える化にも役立ちます。
医療法人の場合の注意
医療法人の場合は、従業員向けの退職金制度とは別に、役員退職金の規程を整備することが望ましいです。役員退職金は、役員退職給与規程に基づいて支給し、過大と認められる場合は損金不算入となる場合があります。役員と従業員の退職金を同じ規程で扱うと、税務上・労務上の問題が生じることがあるため、分けて設計しましょう。
よくある質問
退職金は法律で義務付けられている?
退職金の支給は義務ではありません。ただし、就業規則や退職金規程で定めた場合は、規程どおり支給する義務が生じます。
パートにも中退共に入ってもらえる?
短時間労働者(週30時間未満)は特例掛金(2,000円〜4,000円)で加入できます。加入申込時には労働条件通知書などの証明書の提出が必要です。
導入にかかる初期費用は?
中退共は、掛金の積み立てがそのまま退職金になるため、初期費用は実質かかりません。社内積立や生命保険の場合は、資金の確保が必要になります。
どのような事業所が中退共に加入できる?
中退共の加入対象は中小企業が中心です。加入できる企業の規模などの要件は、中退共の公式サイトで確認してください。
退職金制度があると採用・定着にどう影響する?
退職金制度は「長く働けば働くほど積み上がる」仕組みのため、スタッフの定着意識を高める効果が期待できます。看護師・医療事務の採用競争が激しい地域では、福利厚生としてのアピールポイントにもなります。
導入後に制度をやめることはできる?
すでに積み立てた中退共の掛金は従業員の退職金として保護されます。制度を変更・廃止する場合は、従業員への説明と既得権の取り扱いを慎重に設計し、社労士・税理士に相談しましょう。
まとめ
クリニックの退職金制度は、中退共なら小規模でも低コスト・低負担で始められます。制度を導入する際は、退職金規程を整備し、勤続年数の基礎となる勤怠・給与データを正確に管理することが土台になります。税務・労務の専門家と相談しながら、自院に合った制度を選びましょう。
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