患者から「カルテ(診療録)を見せてほしい」と開示請求を受けることがあります。医療機関は、厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」(2004年6月)に基づき、患者本人からの診療情報の開示に適切に対応することが求められます(出典: 診療情報の提供等に関する指針|厚生労働省)。この記事では、クリニックのカルテ開示請求への対応を、指針・手続き・注意点から整理します。
開示請求は、クレームや医療トラブルの前段階であることも少なくありません。誠実かつ迅速な対応が、患者との信頼関係を守る鍵になります。
開示請求の対象と基本方針
診療情報の開示は、原則として患者本人からの請求が対象です。開示の対象となる主な情報は次のとおりです。
- 診療録(カルテ)— 診察・検査・処置の記録
- 検査結果(血液検査・画像・病理検査)
- 手術・処置の記録、看護記録(医療機関により対象範囲が異なる)
- 紹介状(診療情報提供書)の写し
指針では、診療情報は原則として開示し、患者の理解と医療への信頼につなげることが基本とされています。開示の目的(転医・自己管理・確認など)にかかわらず、正当な請求には対応できる体制を整えましょう。
開示請求への対応フロー
カルテ開示請求への対応は、次の流れで進めます。
- ① 受付 — 開示請求の申出(書面・口頭)を受け付け、請求者の本人確認(本人確認書類)を行う
- ② 対象の確認 — 開示する診療録・検査結果の範囲を特定し、閲覧か写しの交付かを確認する
- ③ 検討 — 第三者(他の患者・医療者)の情報が含まれる場合の扱い、開示により患者に不利益が生じる場合の判断(原則開示だが、合理的な理由があれば一部・全部を非開示とする場合がある)
- ④ 開示 — 閲覧または写しの交付。費用(実費)の考え方と徴収方法を案内する
- ⑤ 記録 — 開示請求の受付・対応内容を記録する(対応の経緯は後日の説明に必要)
対応の詳細(様式・費用・期限)は、厚労省の指針と各医療機関の運用によります。院内の対応手順を決めておきましょう(業務マニュアルの記事参照)。
開示請求の実務:様式と手続きの例
開示請求への対応をスムーズにするため、院内で次のような実務を整備しておきましょう。
- 開示請求書の様式 — 請求者の氏名・連絡先・開示対象(診療録・検査結果など)・希望方法(閲覧・写し)・目的を記入する様式を用意する
- 本人確認の手順 — 運転免許証・マイナンバーカード・健康保険証などでの本人確認。代理人の場合は委任状(本人の意思確認)を求める
- 費用の基準 — 写しの交付にかかる実費(コピー代・送料)の基準を院内で決め、請求時に事前に説明する
- 対応期限 — 請求から開示までの目安(例: 2週間程度)を決め、遅れる場合は理由と時期を連絡する
- 記録の保管 — 請求受付・対応経緯・開示内容を記録し、一定期間保管する(記録管理の記事参照)
開示対応の担当者(事務長・医療事務主任)を決め、対応基準をスタッフと共有しておくと、初めての請求にも慌てず対応できます。
開示に伴う注意点
開示対応で注意したいポイントを整理します。
- 本人確認 — 患者本人の請求か、代理人(家族・弁護士)の請求かを確認し、本人確認書類を求める(遺族からの請求の扱いも指針で確認)
- 第三者情報の扱い — カルテに他の患者・家族の情報が含まれる場合は、黒塗り(匿名化)などで保護する(個人情報保護の記事参照)
- 費用 — 写しの交付にかかる実費(コピー代・送料)を請求できる場合がある(費用設定は各医療機関の判断)
- 開示時期 — 診療経過中の開示は、担当医の確認・説明を伴う形で進める(即時開示が常に適切とは限らない)
- 電子カルテの扱い — 電子カルテのデータ出力・印刷方法を確認する(電子カルテ選びの記事参照)
開示の判断に迷うケース(非開示の可否・代理人の範囲)は、厚労省の指針と、必要に応じて弁護士(専門家の選び方)に確認しましょう。
開示請求とクレーム・訴訟の関係
開示請求は、患者が診療内容への不満・疑問を持った結果であることもあります。開示対応は、クレーム対応(クレーム対応の記事)と連動させることが重要です。
- 開示時の説明 — 開示するだけでなく、担当医・事務が内容を説明し、患者の疑問に答える(説明不足が不満を増幅させる)
- 記録の保全 — 医療事故の疑いがある場合は、カルテ・記録を保全し、改ざんしない(記録管理の記事参照)
- 専門家への相談 — 訴訟リスクがある場合は、早期に弁護士・医療保険(賠償責任保険の記事)へ相談する
開示請求は「トラブルの入口」であると同時に、誠実に対応すれば信頼回復の機会にもなります。事実に基づく丁寧な説明が基本です。
よくある質問
開示請求は必ず応じなければならないのですか?
指針では診療情報は原則として開示することとされていますが、患者本人への開示が不適切と認められる合理的な理由(患者に重大な影響を与える可能性など)がある場合は、一部・全部を非開示とすることが認められる場合があります。非開示の判断は、指針と専門家の確認に基づいて慎重に行いましょう。
カルテの写しの費用は請求できますか?
実費(コピー代・送料など)を請求できる場合があります。費用の設定は医療機関ごとに異なるため、院内で基準を決め、請求時に事前に説明しましょう。
開示請求を拒否されたら患者はどうすればよいですか?
開示が原則であり、非開示とする場合は理由を説明する必要があります。患者が納得しない場合は、都道府県の医療安全相談窓口(医療安全支援センター)への相談や、審査の申立ての道がある場合があります。医療機関側は、非開示の判断根拠(指針上の要件)を明確に記録し、説明できる状態にしておきましょう。
開示請求の対応で最も気をつけることは?
「早すぎる対応」と「遅すぎる対応」の両方に注意が必要です。本人確認を省略して開示すると、第三者への情報提供(個人情報保護法上の問題)になり得ます。一方で、対応を引き延ばすと患者の不信が募ります。本人確認→対象確認→検討→開示→記録の流れを、決めた期限内に進めることが基本です。
開示請求の受付窓口はどこにすべきですか?
事務長・医療事務主任など、対応方針を確認できる担当者を受付窓口にします。受付スタッフがその場で「開示できない」と判断するとトラブルになりやすいため、「窓口で受付→担当者が検討→回答」という流れを徹底しましょう。窓口を明確にしておくことは、患者にとっても対応が予測しやすくなります。
まとめ
カルテ開示請求への対応は、厚労省の「診療情報の提供等に関する指針」に基づき、本人確認→対象確認→検討→開示→記録の流れで進めます。開示は原則であり、第三者情報の保護や費用・非開示の判断には注意が必要です。開示請求はクレーム・訴訟の入口になることもあるため、誠実な説明と記録の保全、必要に応じた専門家への相談を組み合わせて対応しましょう。開示対応の担当者と手順を院内で決めておくことで、初めての請求にも冷静に対応できます。指針の最新の内容と都道府県の運用は、管轄窓口で確認することをおすすめします。患者の「知りたい・確認したい」という気持ちに丁寧に向き合うことが、信頼構築の第一歩です。
