クリニックを開業するとき、多くの場合、自己資金だけでなく銀行や日本政策金融公庫などの融資を利用することになります。融資の申し込みで求められるのが事業計画書です。初めて作成する方にとっては「何を書けばよいのか」「どこから手をつければよいのか」がわかりにくい書類でもあります。
この記事では、事業計画書が必要になる場面、基本的な構成、収支計画の立て方、融資審査で見られるポイントを整理します。作成する目的を明確にしながら、自分の開業計画を数字に落とし込むための参考にしてください。
事業計画書が必要になる場面
事業計画書は、法律上、作成が義務付けられた書類ではありません。しかし、次のような場面で提出や活用を求められることが多くあります。
- 銀行・信用金庫・日本政策金融公庫などの融資を申し込むとき
- 開業後の経営の見通しを、自分自身で確認するとき
- 開業コンサルや税理士など、支援者と認識を合わせるとき
- スタッフを採用する際に、事業の方向性を説明するとき
融資を受ける場合、事業計画書は審査の中心となる資料です。加えて、開業後の経営判断の土台にもなるため、融資のためだけに作るのではなく、自分たちの計画を検証する手段として活用するのがおすすめです。
事業計画書の基本的な構成
事業計画書の書き方に法律で決まった形式はありません。ただし、融資審査や経営設計の観点から、次の要素を含めておくと説明が通りやすくなります。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 開業概要 | 診療科目・開業場所・開業時期・対象とする患者層 |
| 事業のコンセプト | 誰の、どんな困りごとに応える医療を提供するのか |
| 人員計画 | 医師・看護師・医療事務などの体制と採用計画 |
| 資金計画 | 初期費用の内訳と、自己資金・借入の配分 |
| 収支計画 | 患者数・診療単価・費用の見込みと損益の推移 |
| 事業の見通し | 開業後の売上・利益・資金繰りの想定 |
※構成は金融機関や作成目的によって柔軟に調整して構いません。重要なのは、記載内容の間に矛盾がないことです。
日本政策金融公庫の創業計画書の記載項目
日本政策金融公庫の創業支援では、「創業計画書」という所定の書式をダウンロードして記入できます。創業計画書の記載項目は、おおむね次のように整理されています(公庫サイトで書式を確認できます)。
- 創業の動機
- 経営者の略歴
- 取扱商品・サービス(この場合は診療内容)
- 従業員の状況
- 取引先・取引関係
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し
医療機関の場合、取扱商品・サービスの欄には診療科目や提供する医療サービスの内容を、事業の見通しの欄には診療圏の状況を踏まえた患者数と売上の見込みを記載します。所定の書式を使うことで、記載漏れを防ぎやすくなります。
収支計画の立て方
収支計画の中心になるのは、患者数と診療単価から売上を積み上げていく考え方です。基本的な式は次のとおりです。
売上の積み上げの考え方
1日の患者数 × 診療単価 × 月間診療日数 = 月間売上の目安
患者数は、開業直後からすぐに目標に達するわけではありません。診療圏の人口や競合の状況を踏まえ、開業後3か月・6か月・1年と段階的に増える想定を立てるのが現実的です。診療単価は、診療科目や自由診療の比率によって変わります。
支出については、人件費・家賃・水道光熱費などの固定費と、薬品費・診療材料費などの変動費に分けて見積もります。開業直後は売上が安定しないため、家賃や人件費を過小に見積もらず、運転資金を厚めに確保しておくことが大切です。
融資審査で見られるポイント
融資の審査では、計画が実現可能か、借入を返済できるかという視点で書類が確認されます。具体的には次のような点が重視されます。
- 患者数の根拠が示されているか(診療日数・診療圏・競合との比較など)
- 費用の見積もりに漏れがないか(初期費用だけでなく運転資金も)
- 損益だけでなく、月次の資金繰りまで見えているか
- 楽観的な前提になっていないか(開業直後の赤字を織り込んでいるか)
押さえておきたいこと
審査で評価されるのは「数字が大きい計画」ではなく「数字に根拠がある計画」です。患者数や費用の前提を説明できるようにしておきましょう。
作成の手順
事業計画書は、一度に完成させようとせず、次の順で進めると作りやすくなります。
- 開業のコンセプトを1文にまとめる
- 物件・設備・採用などの計画を固め、初期費用を積み上げる
- 患者数・診療単価の前提を置き、収支を試算する
- 資金繰り表を作り、運転資金の不足がないか確認する
- 専門家や開業コンサルに内容を確認してもらう
作成中に前提が変わった場合は、計画全体の数字を修正し、整合性を保つことが重要です。融資の面談では、計画書の内容を自分の言葉で説明できることも求められます。
よくある質問と作成のコツ
事業計画書の作成では、次のような質問をよく聞かれます。
- 何ページくらい必要ですか? → ページ数より、前提の一貫性が重要です。A4で数枚でも、患者数・収支・資金繰りの数字がつながっていれば、説明は通りやすくなります。
- 個人開業でも同じ計画書を作るのですか? → 収支計画や資金繰りの基本は同じです。個人開業の場合は、税金や社会保険の支払いタイミングも資金繰りに織り込む必要があります。
- 開業後に見直すことはありますか? → 開業後の実績と計画を比較し、定期的に見直すことをおすすめします。計画は一度作って終わりではなく、経営を確認するための道具として使います。
作成のコツは、専門用語を避けて、第三者が読んでも理解できる文章にすることです。融資の担当者は医療の専門家ではない場合が多いため、診療内容や患者数の考え方を、医療の文脈に依存せず説明できると評価されやすくなります。
まとめ
事業計画書は、融資を受けるための資料であると同時に、開業後の経営を確認するための設計図でもあります。患者数の根拠、費用の正確な積み上げ、資金繰りの確認という3つの視点を押さえれば、説得力のある計画書に近づきます。
作成に不安がある場合は、日本政策金融公庫の創業計画書の書式を活用し、開業コンサルや税理士などの専門家に確認を依頼する方法もあります。まずは自分の開業計画を数字で整理してみるところから始めてみてください。
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